最高裁判所第三小法廷 昭和39年(行ツ)1号 判決 1967年7月18日
上告人 内田勇
被上告人 鳥取県知事
訴訟代理人 上野国夫 外一名
主文
原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所松江支部に差し戻す。
理由
上告代理人原定夫の上告理由について。
本件訴訟は、被上告人知事が昭和二三年七月二日本件土地を訴外八幡為治において上告人に小作させている小作地であると認めて同訴外人より買収し、同日これを上告人に売り渡したが、昭和三三年九月一七日にいたり、右買収処分には非農地を農地と誤認した瑕疵があるという理由で、同買収及び売渡処分を取り消したので、上告人が被上告人知事を被告として、右各取消処分の取消しを求めるものであり、原審が、本件土地は買収処分当時農地でなく、しかも上告人にはその賃借権がなかつたので、右買収及び売渡処分は無効であつて、その各取消処分は、無効であることを明確ならしめる意味でなされたものであるから違法とはいえないと判断し、上告人の請求を棄却したことは、判文上明らかである。
ところで行政処分が無効であるというためには、処分要件誤認の瑕疵が客観的に明白であることを必要とするが、ここにいう客観的明白とは、その誤認であることが権限ある国家機関の判断をまつまでもなく、何人の判断によつてもほぼ同一の結論に到達し得ることを意味すること、当裁判所の判例とするところである(昭和三六年(オ)第八〇四号、同三七年七月五日第一小法廷判決、民集一六巻七号一四三七頁参照)。したがつて、処分要件の誤認につき右のごとき結論に到達せしめる事情が認められない限り、当該処分を無効となし得ないものといわなければならない。ところが、原判決を精査してみても、被上告人が非農地である本件土地を小作地と誤認したことについて右の事情があつたことを推認せしめるに足りる事実が確定されているものとは認め難い。それ故、本件農地の買収及び売渡処分が当然無効であると判断し、処分の日から一〇年余も経過した後になされた右各取消処分をもつて、その無効であることを明確ならしめる意味でなされたものであるから違法とはいえないとした原審の前示判断は、法令の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽、理由不備の違法をおかしたものというべく、その違法が判決の結果に影響を及ぼすことは明らかである。
されば、右の違法をいう論旨は理由があり、原判決は、その余の論旨について判断を加えるまでもなく、破棄を免かれず、前示の点につきさらに審理を尽させるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官五鬼上堅磐は退官につき評議に関与しない。
(裁判官 下村三郎 柏原語六 田中二郎)
上告理由書<省略>